最終更新日:2024.08.20
大規模修繕 

責任施工方式とは?設計監理方式・管理会社元請方式との違いや特徴を解説

「責任施工方式」「設計監理方式」「管理会社元請方式」それぞれのメリットや特徴を解説

皆様が大規模修繕工事を計画する際、まずは修繕委員会の立ち上げなど管理組合内の体制を整えることから始めると思います。それでは次に考えなければいけないことは何でしょうか。
見積りの依頼先を探すことでしょうか。建物診断でしょうか。

実は、工事の発注方式を決めることです。

「まだ何も始まらないうちからいきなり発注のこと?」と思う方がいるかもしれません。しかし、この「発注方式の決定」はごくごく初期の検討事項ながら、工事全体の方向性を決めるとても重要な判断になります。計画が半ば進んでから「やっぱり違う発注方式で…」と軌道修正するのはとても難しいので、初期の段階でしっかり検討することがとても大切になります。

今回は「責任施工方式」を中心に、「設計監理方式」や「管理会社元請方式」など代表的な発注方式ついて、それぞれの特徴やメリット/デメリットについて解説します。それぞれの違いを理解して、より自身の管理組合の特性に合った発注方式を選べるようにしましょう。

大規模修繕工事の発注方式は主に3種類

はじめに、代表的な大規模修繕工事の発注方式には「責任施工方式」「設計監理方式」「管理会社元請方式」の3種類があります。それぞれの違いは専門家の関わり方にあります。

大規模修繕工事を進めていく際、多くのマンションでは理事会や修繕委員会が主導して計画を進めていきます。しかし理事や修繕委員になったとはいえ、なかには「耳慣れない専門用語が飛び交い、上手く進められるのか不安…」という方も多いのではないでしょうか。

実際、大規模修繕工事を円滑に、そして安全に進めていくためには、工事中はもちろん、工事前にも、様々な段取りや検討事項の整理・決定、書類の準備などが必要になります。管理組合だけで計画全体を進めるのはなかなか大変なことも多いため、多くのマンションでは管理会社やコンサルタント、施工会社など専門知識を持ったパートナーとタッグを組み、一緒に工事を進めていくのです。そして、どの専門家にどの役割を担当してもらうかで、自ずと発注方式も決まってきます。

1. 専門家の役割

まず、発注方式について具体的に説明する前に、工事に関わる専門家の主な役割を3つご紹介します。いずれも発注方式を理解する上では欠かせない言葉なので、しっかりイメージできるようにしましょう。

① 設  計  → 建物の状況を確認し、現状に基づき工事の内容を組み立て、設計図書を作成します。工事前の計画を策定する作業です。
② 施  工  → 設計図書に基づき、実際の工事をします。
③ 工事監理  → 工事期間中、設計図書に基づいて適正に工事が行われているかを監理・監督します。

①②③それぞれの役割を誰に依頼するのかで「責任施工方式」「設計監理方式」「管理会社元請方式」と呼び名が変わります。代表的な3つの発注方式を理解し、より自身の管理組合の特性にあった工事の進め方を選べるようにしましょう。

2. 大規模修繕工事の発注形式

つぎに3つの発注形式それぞれを具体的に見ていきます。

1. 責任施工方式

まずは「責任施工方式」です。

責任施工方式とは、①「設計」②「施工」③「工事監理」のすべての役割を、工事を行う施工会社が担当する方式です。

① 設  計 → 施工会社
② 施  工 → 施工会社
③ 工事監理 → 施工会社

責任施工方式

管理組合は施工会社と直接契約します。工事に関する決め事も管理組合と施工会社で直接やり取りが必要になるため、若干ハードルが高く感じるかもしれませんが、要望がダイレクトに伝わりますので過去に大規模修繕工事を経験されて、ある程度手順がイメージできる管理組合や、自分たちの希望も踏まえ積極的に工事に関わっていきたいと考える管理組合であれば、やりやすさにも繋がる部分です。

一方で、施工会社には工事に対する品質だけではなく、設計などの技術面、課題や将来を見据えた提案力、理事会への参加・合意形成のサポートなど、実際の工事以外にも総合的な力量が求められます。発注先を選ぶ際には、これまでの修繕実績や元請としての施工経験、財務体質などもしっかり確認することが大切です。

2. 設計監理方式

設計監理方式とは、①「設計」と③「工事監理」をコンサルタント(設計事務所など)が担当し、②「施工」を施工会社が担当する方式です。

① 設  計 → コンサルタント(設計事務所など)
② 施  工 → 施工会社
③ 工事監理 → コンサルタント(設計事務所など)

設計監理方式

管理組合との打ち合わせのもと、コンサルタントが計画・設計をした工事内容に従って施工会社が工事を行います。また、工事期間中、コンサルタントは設計図書に従い工事が適切に実施されているか、施工会社を監理・監督します。

責任施工方式との大きな違いは、①設計・③工事監理と②施工を別々の会社に依頼することで、工事に対して専門家である第三者のチェック機能が働くことです。コンサルタントは工事の準備段階から参加し、計画を進める中でアドバイザー的な役割も果たします。

3. 管理会社元請方式

管理会社元請方式とは①「設計」②「施工」③「工事監理」のすべての役割を、管理会社が担当する方式です。

① 設  計 → 管理会社
② 施  工 → 管理会社
③ 工事監理 → 管理会社

管理会社元請方式

実際の工事は管理会社関連の工事部門や、下請となる外部の施工会社が行うケースがほとんどですが、日頃からお付き合いのある管理会社が窓口となって、管理組合の手間を最小限に抑えることが可能です。

3つの発注方式のメリット・デメリット

「責任施工方式」「設計監理方式」「管理会社元請方式」の違いを理解したところで、それぞれの発注方式についてメリット・デメリットを見ていきましょう。

責任施工方式のメリット

ここからは、責任施工方式のメリットについて解説します。

・施工会社とつくるオーダーメイドの工事

設計から施工・工事監理まで、全ての工程を施工会社が行うため、交渉事などは管理組合が直接施工会社と行うことになります。様々な調整や折衝など自分達で動く場面も多くなりますが、要望もダイレクトに伝わりますので、提案力のある施工会社と良い関係を築くことができれば、仕上がりやコスト面でも満足のいく内容が実現できる可能性も高くなります。

・コストが抑えられる

責任施工方式では管理組合が工事をする施工会社と直接契約をします。そのため、間に入るコンサルタントや管理会社に支払う手数料が発生しない分、コストを抑えることができます。その分の費用は将来のために積み立てたり、バリアフリー化などの改良工事を実施したり、大事な修繕積立金を効果的に住環境の改善に充てることが可能です。

責任施工方式のデメリット

続いて、責任施工方式のデメリットを紹介します。

・品質は施工会社の総合力に左右される

責任施工方式の場合、施工会社は工事への対応力だけではなく、設計などの技術面、課題や将来を見据えた提案力、理事会への参加・合意形成のサポート、アフターサービスの丁寧さなど、総合的な力量が求められます。万一、力の足りない施工業者と契約してしまった場合、その結果は品質に直結します。

施工業者を選ぶ際、どうしても価格に重きが置かれてしまいがちですが、価格にばかり目が行くと、品質を守る上で大切な視点が薄れてしまいます。これまでの修繕実績や元請としての施工経験、工事に対する思いや姿勢など、様々な角度から検証することが大切です。

・管理組合の手間は増える

「設計監理方式」や「管理会社元請方式」と違い、管理会社やコンサルタントが間に入らない分、管理組合自らが直接施工会社とやり取りする場面も多くなります。もちろん工事内容の検討や見積りの検証など、専門的な知識や経験が必要な場面では、基本的に施工会社から提案やアドバイスがあると思いますので大丈夫ですが、「責任施工方式」の場合、施工会社とは工事以外の場面でも色々なやり取りが発生します。

工事の技術力に加え、管理組合との関わり方や住人への配慮などソフト面でも細やかなサポートを期待できる会社を選ぶことで、管理組合の手間や進めやすさも大きく変わってきます。再三にはなりますが、施工会社を選ぶ際には施工実績や元請としての経験の豊富さなども判断材料になりますので、きちんと確認をしましょう。

設計監理方式のメリット

ここからは、「設計監理方式」のメリットについて解説します。

・第三者のチェック機能が働く

全て一社に依頼する「責任施工方式」との大きな違いは、設計・工事監理と施工を別の会社に依頼することで、専門家である第三者のチェック機能が働くことです。管理組合だけではなかなか判断の難しい、工事内容の検討、相見積の比較や施工会社の選定などについても、コンサルタントから提案やアドバイスを受けることができます。また、着工後は、専門家の視点で工事が設計図書どおりに施工されているか監督をしてくれるので安心です。

・合意形成を促すサポートを期待できる

100戸以上の大型マンションや意見が分かれ集約が難しいマンション、修繕積立金の値上げや融資の申請などを検討しているマンションなど、大規模修繕工事に至る過程で合意形成に高いハードルがあると、管理組合内だけで話し合いを重ねても紛糾し、議論が停滞してしまう場合があります。こうしたケースでは第三者であるコンサルタントに関わってもらうことで専門家の公平感な視点を得ることができ、議論を前に進める効果が期待できます。大規模修繕工事は総会での承認を経て、はじめて実施できる工事です。管理組合だけで合意形成への道のりをつくるのが難しい場合は、こうした第三者の役割が大きなサポートとなります。

設計監理方式のデメリット

続いて、設計監理方式のデメリットを紹介します。

・コンサルタントの選定や費用が別途発生する

「設計監理方式」の場合、設計事務所やコンサルタント会社に支払うコンサルタント費用が別途発生します。工事費用ほどではありませんが、それなりにまとまった金額にはなりますので、管理組合内でも採用に慎重を期す声があがる場合もあります。理事や修繕委員は「なぜコンサルタントの採用が必要なのか」、自らもしっかり組合員に説明できるよう準備をしておきましょう。

また、そもそもコンサルタント会社の選定も必要になります。コンサルタントを選ぶ際は、過去の実績はもちろん、依頼毎に対してスムーズな対応が返ってくるか、専門用語を多用せず組合員にもわかりやすい言葉で話をしてくれるかなど、配慮あるコミュニケーションが期待できるかも大切なポイントです。

管理会社元請方式のメリット

ここからは、「管理会社元請方式」のメリットについて解説します。

・管理組合の手間の最小化

日頃から管理業務を担う管理会社に工事を一任できるので、管理組合の負担は大幅に軽減されます。それでも、大規模修繕工事はマンションの一大イベントですので理事会や修繕委員会が動く必要はありますが、「責任施工方式」や「設計監理方式」と比べればその手間は最小化することができます。働いている世帯が多いマンションや賃貸化が進んだマンションなどは、重要な箇所は自分達でチェックしつつも、管理会社のサポートをうけることで計画全体をスムーズに前に進めることができます。また、日頃から馴染みのある会社なので、何かあった時にも相談がしやすいという心理的な安心感があります。

管理会社元請方式のデメリット

続いて、「管理会社元請方式」のデメリットを紹介します。

・工事費用が高くなりがち

管理会社への手数料が発生するため、工事費用は割高になる傾向があります。管理会社内やグループ会社に工事部門を持っていない場合は下請の施工会社にお願いすることになりますが、ここでも競争原理が働かないとやはりコストが高めになる傾向があります。

「責任施工方式」や「設計監理方式」は初心者には難しい?

ここまで見てきて、「そうは言っても『責任施工方式』や『設計監理方式』は管理組合側の手間も増えるし、施工会社やコンサルタントとのやり取りはハードルが高そう…。どちらかというと2回目・3回目の大規模を実施するマンションや経験豊富な理事がいるマンション向けでは?」といったイメージを持たれた方もいるかもしれません。

実際、ヤシマ工業でも大規模修繕を何度か経験してきたマンションや理事の方から「今回は『責任施工方式』でやりたいと考えています」とお問合せをいただくことは多いです。しかしその一方で、理事や修繕委員になったことをきっかけにご自分でも色々と勉強され、「初めての大規模だけど『責任施工方式』で考えています。」「『設計監理方式』で動いています。」というお問合せも増えています。

また、管理組合の中には自らが動く機会が増えることを“手間”ではなく“より良い住環境を実現するために自分達が関わる絶好の機会”と捉え、主体的に工事に参加することをモチベーションにしているマンションもあります。大規模修繕工事をきっかけに顔を合わせる機会が増え、組合内でのコミュニケーションが良くなるという場合もありますので、マンションの一大イベントをプラスに捉え、組合運営に上手く活かすことで更なる相乗効果も期待できます。

大規模修繕を初めて予定しているマンションが「責任施工方式」や「設計監理方式」での工事を考えている場合、“初めてだからできない”ということはありません。ただし、手探りで不安に感じることも多いと思いますので、施工会社やコンサルタントが細かなところまでサポートできるに越したことはありません。依頼先を選ぶ際はこれまでの実績や会社の姿勢、コミュニケーションの取りやすさなどをしっかり考慮して選ぶようにしましょう。

違いを理解して、自分達に適した発注方式を選べるようにしましょう

「責任施工方式」を中心に、「設計監理方式」「管理会社元請方式」と3つの発注方式の違い、それぞれのメリット・デメリットを見てきました。

最初にもお伝えしましたが、「発注方式の決定」はごく初期の検討事項ながら、工事全体の方向性を決めるとても重要な判断項目になります。それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、どの発注方式が自分たちのマンションに一番適しているのか、選べるようにしましょう。大規模修繕工事はマンションの一大イベントです。しっかり知識を身につけて、成功への足掛かりにしましょう。

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